AI時代における現実世界の投資
あれやこれやとバブルの予想をするのがウォール街のちょっとしたスポーツです。要するに、バブルが起きている一角をいち早く発見すれば巨万の富を生む可能性があるのです。1999年のITバブルを予言したことで知られるジェレミー・グランサム氏や、2007年の住宅バブルを予言し書籍や映画で名をはせたマイケル・バーリ氏のような存在になることには計り知れない魅力があります。しかし、この二人による正確な予測はバブル予想の歴史では明らかな例外です。ですので、生成AI(人工知能)バブルの到来か?というレポートが増えていますが、私は懐疑的な目で見ています。
あるセクターでバブルの可能性があるかどうかを分析する際には、最近のそのセクターのパフォーマンスや過大な期待の根底にあるものに目を向けなければいけません。AIの基盤はデータと、それを利用するために必要なインフラです。それらを見ると、私にはこれがバブルだとは思えません。これは、変革の可能性を秘めた、テクノロジー・バリューチェーン全体で発展を続ける長期的な成長機会であると考えられます。
AIの黎明期の成長ストーリー
ブラックストーンでは最近、最高技術責任者(CTO)を集め、AIの影響やその可能性などについて議論しました。CTO達が共通して指摘したのは、多くの企業がAIについては研究段階にあり、生産性向上のためにその能力をまだ十分に引き出せていないということです。つまり、生成AIが画期的な変革をもたらすことは間違いないと考えられるものの、私たちにはまだ完全に理解できない方法で実現することでしょう。
事実として、AI関連銘柄は今年、急騰しました。しかし、ドイツ銀行のリサーチ・ストラテジスト、ジム・リード氏が「Flippant Friday」の投稿でユーモアを交えて指摘したように、世間一般の認知度が50%しかない現状で、AI銘柄の株価推移がこれだとしたら、全人口がAIを認知するようになったとき、これらの銘柄はどこに行きつくのでしょうか。
現在は企業や幅広い経済がAIを取り入れ始めたばかりです。今のところ、答えよりも疑問の方が多いかもしれませんが、AIの実装と成長軌道に不可欠と思われる力学を見極めることはできます。
データが増加すれば、それだけ多くのストレージが必要になる
いくつかの点で、生成AIはeコマース(電子商取引)が台頭してきた頃を思い起こさせます。アマゾンが小売業界を根本的に破壊することは明らかで、投資家たちはアマゾンの成功を現実にするインフラを探し求めました。当初それほど明白でなかったのは、アマゾンの躍進には倉庫が不可欠だということでした。アマゾンが顧客との約束を実現するためにはラストワンマイル物流網が必要であり、そのためには人口集中地区の近くに大量の倉庫を構える必要がありました。こうして都市型倉庫が整備されました。
今日、AIとデータセンターの関係にこれと同じことを見出せます。生成AIモデルは堅牢なデータ処理能力と大容量のストレージに依存するため、生成AIアプリケーションの集中的な演算要件に対応できる物理的なデータセンターの需要が高まるはずです。また、データセンターは複数のマシンや他の複数のデータセンターにまたがるオペレーションを効率的に調整して、分散学習と推論を可能にします。クラウドに対応したストレージや演算要件の変化につれ、データセンターの需要は近年劇的に増加しています。図表1に不動産サービス大手シービーアールイー(CBRE)の推計を示しましたが、データセンターの供給は2015年以降、約3倍に増加しています1。
図表1:主要市場のデータセンター総供給(メガワット、MW)
出所:CBREリサーチ、CBRE Data Center Solutions, H2 2022.
世界で日々生成される膨大なデータの量を考えれば、データセンターのこうした増加は驚くにはあたりません。図表2が示す例は驚異的です。例えば、電子メールは毎分2億3,000万通以上、テキストは1,600万通以上送信されています。また、1分当たりに行われるグーグル検索は590万件、フェイスブックでのコンテンツ共有は170万個に上り、ツイッターでは34万7,000個がツイートされています。
図表2:1分ごとに生成されるデータ量
出所:ドーモ、ゴールドマン・サックス・グローバル・インベストメント・リサーチ作成データ
生成AIの物理的な存在機会
今度はこれにAIを加えてみましょう。AIはなんとなく、難解で抽象的な概念に思われます。ネットワーク上に住み着いているソフトウェアの一形態とでも言えばいいでしょうか。実際には、AIを支えているのは現実世界のデータセンターで、データストレージやクラウドベースのアプリケーションが物理的なサーバー上で動作するのと変わりません。しかし、AIの物理的ニーズには既存のアプリケーションとは異なる部分があり、新技術に合わせたデータセンターの開発につながる可能性があります。例えばメタは最近、自社のAI開発をサポートするためにデータセンター・プロジェクトを再設計する計画の詳細を発表しました。
データ需要の乗数
これと同じ原動力が、特化型および汎用型の生成AIモデルの開発にしのぎを削る多くの勢力を駆り立てています。これらはすべて、膨大な演算能力、堅牢なデータ処理能力、大容量のストレージに大きく依存しています。また、生成AIアプリケーションを駆動するためには負荷の高い要件を満たす必要があり、その基盤となりえるデータセンターの需要の増加を後押しすることが予想されます。また、データセンターは複数のマシンやデータセンターにまたがるオペレーションを効率的に調整して、分散学習と推論を可能にします。
生成AIのコストやメリットはまだ完全には理解されていないかもしれませんが、私は、AIは一過性のものではなく、この分野への投資が急増すると信じています。テクノロジー企業が開発の可能性や用途を巡って競う一方で、私の視点からは、データセンターはAI主導の世界の現在と未来で恩恵を享受するのに良好なポジションにあるように見えます。
データ・分析:タイラー・ベッカー
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Market Insights 和訳版
本レポートは、ブブラックストーン・グループ プライベート・ウェルス・ソリューションズ のチーフ・インベストメント・ストラテジストであるジョー・ザイドルにより執筆されたマーケット・インサイト (2023年6月21日発行)の和訳版です。本レポートは情報提供のみを目的としており、広告、特定の金融商品に関する投資助言・勧誘、及び販売等を目的としたものではありません。また、本レポートの一部または全部を、弊社の書面による事前承認なく第三者へ転送・共有することを禁じます。
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