2021年のびっくり10大予想
今年で36回目を迎える「びっくり10大予想」には入念な準備が必要です。最初は、夏に開催する4回(今年は5回)の「ベンチマーク・ランチ」でコンセンサスの在り処を探ります。続いて、秋にはフォーカス・グループ調査を重ね、数百本の調査レポート・新聞・雑誌記事をふるいにかけて、アイデアを生み出し、優先順位付けを試みます。ジョー・ザイドルとテイラー・ベッカーも一緒になって、このプロセスを取り纏め、12月中旬には、大方整いますが、クリスマスまで「サプライズ」の微調整は続きます。
2020年は明らかに特異な一年でした。新型コロナウイルス感染症は2019年終盤から中国で猛威を振るい始めましたが、当初は、アジアで長引くものの、他の地域では深刻な問題になっていないウイルスの1種と見ていました。大きな検討違いでした。コロナは2020年の世界で最も重大なイベントとなり、その影響は長年続きそうです。ウイルスは10大サプライズにさまざまな影響を及ぼしました。私たちが正しく予想できた項目は、想定とは異なる状況から恩恵を受けました。予想が外れたケースでは、思いもよらなかったコロナの影響が原因となりました。全体的に見て、私たちの「サプライズ」の多くは的中はしませんでしたが、春の景気後退、ロックダウン、多数の企業倒産、また数十万人に及ぶ米国内での死者数にも反し、株式市場が順調に推移した点については、皆が満足のいく結果でしょう。私たちも昨年の的中結果にやる気をそがれてはいませんし、2021年のサプライズ予想ががより多くを予見できていることを期待しています。
まずは、2020年のびっくり10大予想を振り返りましょう。私たち戦略チームの定義するサプライズ予想とは、チームは50%以上の確率で発生すると考えるものの、プロ投資家は3分の1しか見込んでいないイベントです。
1つ目のサプライズは、経済は失望を呼ぶものの、景気後退は避けられるというものでした。景気は3月から4月に急激に後退しましたが、「V」字型の回復が続き、景気後退は過去最短で終わりました。雇用は2019年の水準に比べ半分程度しか回復していない一方、従業員が在宅勤務でも効果的に仕事する術を身につけました。企業はホワイトカラーの従業員に給与を支払い続けており、収入水準は景気後退前の約4分の3まで回復しています。業務上の都合から出勤を余儀なくされた労働者は必要な予防措置を取ったうえで出勤しましたが、レストラン従業員のような相対的に低所得者層は多くが苦境にさらされました。財政政策や金融政策を通じた救済措置(「刺激策」は成長を促す要因ですが、そうではなく、単に不足を補うための措置)は多くの人々を救いましたし、今後も継続しなければなりませんが、経済は断固たる勢いを自力で生み出すには至っていません。連邦準備制度理事会(FRB)による政策金利の引き下げは、私たちの予想通り、実施されました。トランプ大統領が目指した給与税減税は議会の承認を得られず、実現しませんでしたが、据え置きとなりました。
2つ目のサプライズとして、上院で民主党が過半数を獲得することを予想しました。この予想が正しかったかどうかは、2議席ともに民主党が獲得することとなったジョージア州の決選投票で明らかになりました。11月の選挙で格差是正と気候変動が重視されるという予想は正しかったものの、それが、ジョー・バイデン候補の当選にどのくらい寄与したかは疑問です。既に一度、トランプ大統領は弾劾されましたが、政権から追われることはありませんでした。当時、裁判では何も明らかにされなかったものの、私達が予想したように、州・地方選挙に影響を与えました。結局、私達が考えたよりも米国の政治的な分断は深刻化しました。
第3のサプライズの焦点は中国でした。中国が2020年中に西側への敵対的な態度を強化するとは予想しませんでしたし、貿易交渉の第2段階の合意に向けた進展がほとんどないとも考えました。中国が知的財産を獲得する動きが他国から厳格に制限されることはなく、5Gテクノロジーには中国独自の別規格が登場すると予想しました。米国と中国の経済的な共依存関係が崩れるという点については正しかった一方、両国は香港情勢に本格介入はしないという予想は間違っていました。
第4のサプライズは、一連の事故が原因で大手メーカーや技術会社が開発を打ち切ることになるため、自動運転車の実務化は将来に先送りされる、というものでした。ウーバーが自動運転車部門の売却を発表したのは、明らかに自動運転車という構想に対する幻滅を示すものでしょう。他を見回しても、自動運転車の2020年の進捗は微々たるものでしたが、事故が原因ではなく、それは一概に新型コロナをめぐる懸念が最大の要因だったと言えます。
第5のサプライズはあたりませんでした。イランがイスラエルとサウジアラビアに対する攻撃を一層強めると予想しました。イランは実際に核兵器開発を続けましたが、中東諸国がイスラエルとの関係確立に尽力したことで、地域の緊張が全体的に弱まりました。バイデン政権は何らかの形でイランと交渉する意向があるようですが、成功するかどうかは不透明です。主要な核科学者の一人が暗殺された後、イランは依然として西側に懐疑的です。ホルムズ海峡は閉鎖されず、私たちが上昇すると予想した原油価格は、下落しました。
パンデミックにもかかわらず、第6のサプライズについては上々でした。S&P 500は、年初には企業業績が予想を下回ったにもかかわらず、私たちの予想した3,500ポイントを超えました。財政・金融政策が市場の上昇に役割を果たし、また、5%を超える調整が入るため市場のボラティリティが上昇するという考えは正しかったことになります。投資家の旺盛な投資姿勢がまだ目に見えていないという評価も正しかったことが分かりました。
第7のサプライズも概ね正しかったと言えます。大手ハイテク企業に対する政治の監視や社会的に否定的な反応が強まるという予想でした。司法省による訴訟は、当該企業が競争を阻害しているという懸念を背景としています。世論は、広告主に個人情報が売り渡されることに反対しています。以前のIBM、アップル、マイクロソフト分割に向けた取り組みとは対照的に、今回は幅広い支持を背景に、複数の企業を分割する努力が実際に進展しているように見えます。米国の州政府や欧州までもがこの動きに賛同しています。
サプライズ8は英国のEU(欧州連合)離脱に関するものでした。EUとの交渉を楽観視し、実行可能な妥協策が見つかるだろうと考え、それを基に英国を良好な投資先とみなし、英ポンドが上昇すると見通しました。英国が年末までに合意にこぎつけること、米国とアジアが欧州をアウトパフォームすることについては、正しく予想しましたが、コロナウイルスによって英国の経済見通しの計算が狂いました。英国はロックダウンの実施と解除を繰り返しており、コロナ禍で脆弱性を最も露呈した国の一つとなっています。
サプライズ9の債券市場については過度に悲観的でした。大方の見方と同様、持続する経済成長が国債利回りを押し上げると予想しましたが、財政・金融の緩和政策と守りに入った投資家の利回り探求が重なり、利回りは低位を維持しました。需給が利回りを押し上げるという予想を立てましたが、これらの要因は実際には金利低下に寄与しました。
最後のサプライズ10では、事故を起こした737MAXの運航再開に向けてボーイングが前進し、年末までに乗客を乗せた商業飛行にこぎつけると予想しました。アメリカン航空は、12月にマイアミ=ニューヨーク間で737MAXによる非商業便と商業便の運航を計画し、他社も同機の発注を続けています。まだ広範な支持は得られていないものの、これはコロナに関連した航空業界の先行き不透明感の方が大きな影を落としているためでしょう。
毎年、基本リストの10位に入らないサプライズもいくつか選びます。「番外編」は、選択した10項目よりも実現の可能性が低い、または関連性が低いと判断されるサプライズです。昨年は5つありました。インドの政治的・経済的な問題は国内の株価上昇を妨げるものではないと予想しました。Sensex指数は年初来で上昇しましたが、複数の新興市場の株式指数をまとめたバスケットに比べ出遅れています。人工知能が大規模な失業をもたらすという見方には懐疑的でしたが、これまでのところは正しいようです。しかし、データがコロナ禍で混乱しています。ロシアでは、社会不安からプーチン大統領の指導力が試されると考えましたが、それは実現していません。新興市場については混乱や不安定さが増すことで、通貨の下落につながると予想しました。全般にそうなりましたが、要因となったのはコロナウイルスです。また、北朝鮮は問題の頻発地としての鳴りを潜める一方、核装備は放棄しないとも予想しました。金正恩委員長が説得されて核開発を中止するかもしれないとも考えましたが、この点で進展は見られませんでした。
毎年、ジョー・ザイドル、テイラー・ベッカーと私はびっくり10大予想をまとめるにあたり、多くの協力を受けています。ジョージ・ソロス氏は、びっくり10大予想開始以来36年の大部分について、マクロ環境に対する彼の見解を共有してくれています。外交問題評議会が刊行する『フォーリン・アフェアズ』のギデオン・ローズ編集長とエグゼクティブ・エディターのダニエル・カーツ・フェラン氏は、世界各国の様々な問題点についてコメントを寄せてくれます。ウォール街の元調査ディレクターの「ザ・サード・サーズデイ・グループ」は、洞察に富み、破天荒なアイディアを提供してくれます。
最終的には、私たちがサプライズの選定に責任を持ちます。2020年は何もかも予想が外れたわけではありませんが、最高の的中率ともかけ離れていました。
それでは、2021年のびっくり10大予想を見ていきましょう。
- トランプ元大統領が独自のテレビネットワークを開始するほか、2024年大統領選への出馬も計画します。看板番組「ザ・チーフ」では毎週、自身に似たスタイルで管理・経営を行う州知事や経営責任者に自らインタビューをしていきます。プーチン大統領とのバーチャルインタビューは、テレビ史上で最大の視聴者を惹きつけます。
- 米国大統領選挙の期間中は米中両国から敵対的な発言が飛び出しましたが、バイデン大統領は中国との建設的な外交・貿易関係の回復に着手します。中国株がエマージング市場の上昇をけん引します。
- 5~10種類のワクチン開発が成功するとともに、治療法も改善され、米国は2021年5月末近くの戦没将兵追悼記念日までに何らかの形の「正常」に戻ることができるようになります。一般に、飛行機に搭乗する前や劇場、映画、スポーツイベント、その他の大規模な集会へ入場する前に、予防接種を受けた証明の提示が必要となるでしょう。昨年延期となった夏季オリンピックは7月に開催され、観客は会場での観戦が認められます。
- 司法省は、グーグルやフェイスブックなどが提供するサービスから消費者が実際に恩恵を受けるという主張に動かされ、これら企業に対する訴訟を手加減します。一部事業の売却が提案され、監視規制が適用されますが、企業分割を求める広範な努力は、欧州以外では支持を失います。
- 繰越需要を背景に景気は自律的に勢いをつけ、低迷していたサービス業や航空会社の株価は堅調に推移します。財政・金融政策は歴史的な緩和状態を保ちます。通年の名目経済成長率は6%を超え、失業率は5%に低下します。2010年から2020年まで続いたサイクルを超える、過去最長の景気サイクルが始まります。
- 米連邦準備理事会(FRB)と米財務省は緩和政策を継続し、現代貨幣理論を公然と取り入れます。成長率がインフレ率を超えている限り、赤字は問題にならないようです。というのも、インフレ率の緩やかな上昇を受けて、金は上昇し、クリプトカレンシーも今年はこれまでより市場で受け入れられるためです。
- エネルギー会社の経営陣が長期成長予測を引き下げたとしても、短期的には投資機会が期待されます。「正常」に戻る産業活動と、人々の移動の両方が増加し、WTI原油価格は1バレル65ドルに上昇します。原油掘削機の稼働が増加し、エネルギー・セクターのハイ・イールド債券が底堅く上昇します。2021年は、好パフォーマンス銘柄にエネルギー株が連なるでしょう。
- 株式市場は拡大します。ヘルスケア株やテクノロジー株以外の銘柄にも、価格上昇が広がります。「リスクオン」はリスク無しとはいかず、市場には上半期に約20%の調整が入るものの、年後半にはS&P 500指数が4,500ポイントで取引されるでしょう。景気循環銘柄がディフェンシブ銘柄をけん引し、小型株が大型株を上回り、株式市場では「K型」の回復が見られるでしょう。テクノロジー大型株は流動性の源泉であり続けるも、その株価は今年出遅れます。
- 急激な経済成長を受けて、10年物米国債利回りは2%へ上昇します。イールドカーブはスティープ化しますが、同時にインフレ率が上昇するため、実質金利はゼロ近辺にとどまります。FRBは住宅および自動車セクターの好調さを維持したい考えです。そのため、消費者や企業の信用が立ち行かなくならないよう、債券購入の期間を延長して、長期金利の上昇阻止を狙うでしょう。
- 米ドルは上昇基調へ転じます。ワクチン普及後の米国の経済・金融市場の底堅さは、欧州や日本における債務増加や成長鈍化を懸念する投資家を米ドルへ惹きつけます。米国債はプラスの利回りを維持し、キャリー取引は継続します。
2021年の「番外編」
- 東欧や中東発を中心とするサイバー攻撃が経済に影響を及ぼし始めます。銀行口座情報への侵入や改ざん、病院の患者記録の喪失や、債務回収会社が顧客の購入を追跡できない事態が生じます。これらの改ざんを企む側は、データの整合性を保護する側よりも巧妙な術を持つことが実証され、修復コストも大規模なものとなります。
- テスラは現金と株式交換によって自動車の世界大手を買収します。最高経営責任者のイーロン・マスク氏は、2030年までに同社の自動車では内燃機関を撤廃すると誓っています。
- 金正恩委員長は、ロサンゼルスが射程圏内に入るとする、最新の長距離ミサイルを発射すると脅しをかけます。トランプ氏は金委員長を番組に招待し、金氏が他国を脅すのではなく、協力すれば、氏はより良い人となり、世界はより良い場所になると諭します。金委員長は長距離ミサイルの試験を中止することに同意します。トランプ氏はカメラ目線で、「人々は私が最高の交渉者だと言っている」と言うでしょう。
リストに含めなかった項目を振り返るのもおそらく役立つでしょう。サイバー関連のサプライズを番外編に含めたのは、ロシアの関与の疑いを受けて、時事ニュースとして取り上げられており、脅威が現実のものであっても、もはやサプライズではないと判断したためです。インフラストラクチャーについても触れませんでした。直近3人の大統領が皆インフラ整備計画を約束しましたが、着手された事業はほとんどありません。大規模な計画が実現されればサプライズですが、そうなる兆候は見当たりません。
今回のウェビナーはこちら からご覧いただけます。(英語版のみ)
2021年のサプライズについては、2月のエッセイで詳しく論じます。
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2021年「びっくり10大予想」 和訳版
本リリースは、ブラックストーン・グループ の副会長であるバイロン・ウィーンとチーフ・インベストメント・ストラテジストであるジョー・ザイドルにより執筆された2021年「びっくり10大予想」の和訳版です。本リリースは情報提供のみを目的としており、広告、特定の金融商品に関する投資助言・勧誘、及び販売等を目的としたものではありません。また、本リリースの一部または全部を、弊社の書面による事前承認なく第三者へ転送・共有することを禁じます。
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