2023年のびっくり10大予想

今号はバイロン・ウィーンが1986年から発表している「びっくり予想」シリーズの2023年版です。今年の政治・経済・金融情勢を形作る可能性のある予想外の出来事について、ストラテジストが概説します。

2023年のびっくり10大予想

「びっくり10大予想」は今年で38回目を迎えます。毎年、準備は夏に開催する「ベンチマーク・ランチ・シリーズ」から始まり、そこでは名だたる賢明な投資家たちのコンセンサスの把握を試みます。その後、我々のチームは秋に定期的なミーティングを開き、リストの原案を作成し始めます。ジョー・ザイドルとタイラー・ベッカーが、この取り組みに5年前から積極的に参加しています。

1年前の秋に「2022年のびっくり10大予想」の案を練っていた時には、私たちは皆、市場が厳しい一年に向かっているとの考えで一致していました。市場における企業の評価倍率は約20倍で、株式投資にとって買い時と呼べるものではありませんでした。インフレが問題となっており、新型コロナウイルス感染症のパンデミック対応で米国の経済システムに注入された膨大な財政・金融の流動性を吸収するために米連邦準備制度理事会(FRB)が金融政策を引き締めると見られていました。ウォール街のストラテジストの多くは、新年にS&P500指数が10%上昇すると考えていました。これは、前年の市場動向に関係のない毎年の決まり文句です。私たちは半信半疑でした。ロシアによるウクライナ侵攻など、私たちが想定していなかった世界的に重大な出来事も起こりました。一方で、私たちには市場が割高であり、いかなる逆境の到来も織り込んでいないという確信がありました。

「びっくり予想(サプライズ)」とは、平均的なプロ投資家は3分の1程度の確率しか見込んでいないものの、私たちは50%以上の確率で発生すると信じているイベントと定義しています。単なる逆張りや、高得点の獲得を目指すわけではなく(高得点を取れば嬉しいのですが)、私たち自身や読者の思考の枠を押し広げることを目的としています。1月のエッセイで、私たちは正直に、前年の予想の結果を評価しています。

2022年の第1のサプライズは、市場は変動が激しく、年間で見ると進展が見られず、「往って来い」で終わるというものでした。これはコンセンサス見通しよりもかなり悲観的なものでした。私たちの予想は方向的には正しかったのですが、下落幅への読みがが足りませんでした。市場は20%近く下げるも、それを超えることはないと考えていましたが、ふたを開けてみれば、それより少し深刻な25%近い下落率となりました。年初に多くのグロース銘柄の評価倍率が30倍を超えており、リスクに対し脆弱だと考えていました。私たちが予想したとおり、2022年はバリュー株のパフォーマンスがグロース株を大幅に上回りました。

2つ目のサプライズも、方向性は間違っていなかったものの、読みが甘かった例です。インフレは「一過性」ではなく、消費者物価指数は2022年に4.5%上昇すると予想しました。当時のインフレ率のコンセンサス予想は3%未満でした。私たちは、年間を通じて賃金と家賃が上昇し続け、輸送費とエネルギーの価格下落を相殺することで、「持続的なインフレ」が「支配的なテーマ」になると考えました。

インフレの長期化が明らかになったことを受けて債券市場が反応し、米国10年国債利回りが2.75%まで上昇するというのが3番目のサプライズで、コンセンサスから大きくかけ離れた予想の一つでした。私たちはFRBが2022年に4回利上げすると考えていましたが、これは「びっくり大予想」発表時の大方の見方よりもタカ派的なものでした。インフレ率が私たちの強気な予想を超えてさらに上昇したため、米国10年国債利回りとフェデラルファンド(FF)金利も4%を超えて急騰しました。

第4のサプライズは「平常化への回帰」でした。オミクロン型をはじめとするコロナウイルスの派生型が終息せず、ワクチンの追加接種が必要ではあるものの、大規模な会議や文化・スポーツ施設などの来場者が2019年の水準に戻ると予想しました。これについての結果はまちまちでしたが、旅行やイベントの参加者は勢いよく回復しています。ライブコンサートへの関心はコロナ以前の水準に近づいています(11月にテイラー・スウィフトのコンサートチケットが1日で200万枚売れたという記録的な例もあります)。一部の企業ではイベントの予約がコロナの大流行前よりも大きく伸びたと報告されており、また、FIFAワールドカップ2022カタール大会では、大会史上最高の入場者数を記録しました。

第4のサプライズではオフィス出勤への回帰が進むことも予想していました。オフィスへの出勤率は改善しているものの、不動産の専門家によれば、米国ではほとんどの曜日で稼働率が概ね70%を下回っており、中でも金曜日は最も低調だとのことです。大きな問題は、多くの人が労働から離脱してしまったことだと思われます。その主な理由は、多くの高齢者が早期退職をしたことです。また、やっていた仕事が嫌で、パンデミック中にお金を貯めて、もっと面白いことが見つかる可能性に賭けて、しばらく外の世界に出てみることを決めた人も少なくありません。さまざまな理由から失業率は低水準にとどまっており、ブラックストーンが調査した投資先企業の多くにとって、有能な労働者の発掘・採用は依然として課題となっています。多くの企業は、ビジネスが好転した時に必要な人員を確保するのが難しくなるであろうとの懸念から、景気が減速する中でも従業員を維持しているようです。このことは、最近弱くなっている米国の生産性データにも表れています。

5つ目のサプライズでは、中国が不動産市場の問題に対処すると予想しました。中国の不動産市場は国民の余剰貯蓄の投資先の主要な選択肢であり、危険なほど投機的になっていました。規制強化を受けて、中国国内の資金運用が活発化するのではないかと考えました。当局が不動産投機に対処するという予想は正しかったのですが、プロによる資金運用は今後の機会として残っています。私たちが本当に見抜けなかったのは、中国がゼロコロナ政策を徹底し、経済を減速させ、欧米との関わりを制限したことです。

第6のサプライズでは、金の価格が20%上昇すると推測しました。その根拠の一つとして、暗号通貨が年内に深刻な問題に直面するという私たちの確信を持っていましたが、それは正しく、また金のスポット価格は年明け数ヵ月で14%も急騰しました。しかし、その後の金のパフォーマンスは期待外れに終わりました。2022年は金利が上昇し、リターンを生み出さない金を保有するコストが現実のものとなりました。また、ドルの価値も上昇し、他の価値貯蔵手段を求めるよりも、紙幣で財産を保有することの魅力が高まりました。

第7の予想では原油に注目しました。私たちは、シェールオイルを採掘する際の水圧破砕(フラッキング)法が採算に合うようになる水準まで価格が上昇すると予想していましたが、その通りになり、春には1バレル100ドルを超え、最近80ドルまで下落しました。これについては、予想は正しかったものの、理由が間違っていました。原油価格の急騰は需要主導によるものではなく、ロシアのウクライナ侵攻に伴う供給ショックによるものでした。最近の下落は世界的な経済成長の鈍化を受けたものです。グリーン電力などの導入を目指す取り組みは依然として広く行われており、米国のインフレ抑制法や国連気候変動枠組条約第27回締約国会議(COP27)もこの問題に対処しようとしていますが、2022年の原油価格の変動にはマクロ経済要因が大きく作用しました。

8番目の予想では、原子力発電が再び注目を集める可能性を指摘しました。安全対策がより効果的になり、原子力発電のリスクが大幅に軽減されるというのが私たちの考えでした。フランスは電力の70%を原子力発電でまかない続け、ドイツは脱原発政策を見直しました。私たちは、二酸化炭素排出量の削減に同じ水準の影響を与えられる他のエネルギー源は、存在するにしても、ほとんどないと考えています。ロシアのウクライナ侵攻により、特に欧州では代替エネルギー源の確保が急務となりました。同時に、戦争によってウクライナの一部の核施設が危険にさらされ、原子力の安全性に対する懸念の払しょくにはつながっていません。この変化に対する政治的なハードルはまだ非常に高く、2022年にはほとんど進展がありませんでしたが、チャンスはまだあります。世界は気候変動に関する目標達成への進捗に遅れをとっており、排出量の多い国は直ちに行動を起こす必要性が高まっています。地球温暖化で被害を受けた発展途上国に金銭的な支援をすれば問題が解決するというわけではありません。2022年に米ローレンス・リバモア国立研究所による実験の成功が発表され、核融合技術の長期的な展望が開けたことは良いニュースです。しかし、核融合技術による発電が実用化されるのは数十年先かもしれません。

第9のサプライズでは、少なくとも米国では、環境・社会・ガバナンスの要素が主流となり、ビジネス哲学の一部になると考えました。これは欧州では既に実現しつつありますが、米国では依然として軋轢を生む課題となっており、産学界の一角においてある程度受け入れられているものの、共和党優勢の「レッドステート(赤い州)」や共和党議員の多くから強い反発を受けています。

10番目のサプライズは、電気自動車の生産に使用されるリチウム、コバルト、ニッケルなどの材料の極端な不足への懸念でした。この予想は今のところ実現していませんが、リチウムの供給問題は昨年ずっと注目を集めました。多くの大手自動車メーカーが今後10~20年の間に内燃機関自動車の販売終了を目指す中、電気自動車の主要材料の不足は現実味を帯びてきています。これらの材料の多くは中国が重要な生産国であり、その生産を支配していることから、米中関係が改善されなければ問題は深刻化する可能性があります。

毎年、10大予想に入らないサプライズもいくつか選びます。私たちが選んだ10個のサプライズほどふさわしいと思えない、あるいは翌年中に実現する可能性が50%以上あると確信を持てないものです。

「番外編」の1つ目は、米食品医薬品局(FDA)が初の遺伝子編集治療法を承認し、ゲノム医療の研究が広がるというものでした。まだ実現はしていませんが、アルツハイマー病、がん、心臓病、糖尿病などでは大きなブレークスルーが近いというのが一般的な見方でしょう。2つ目は、暗号通貨に不信感を抱くジェイミー・ダイモン氏が立場を翻し、JPモルガンの資金管理プラットフォームで一部の暗号通貨を採用するというものでした。同社の暗号通貨に対する態度が柔軟化してきているという証拠がいくつかありますが、FTXの崩壊から続く影響を含む広範なトラブルもあり、このオルタナティブ資産への関心は低下しています。3つ目は、半導体技術が経済的リーダーシップに不可欠であるとの認識のもと、中国と米国がそれぞれ技術向上に大きく力を入れるというものでした。これについては、特に米国では確実に一定の進展が見られました。「CHIPS・科学法(Chips and Science Act、通称米半導体法)」が成立し、複数の大手半導体メーカーが米国に半導体工場を建設する計画を発表するなどしました。

最後の一つは、プエルトリコは気候が良く、税制上の優遇措置もあるため、避寒地や移転先として重要な存在になるという予想でした。昨年の荒天の後では、実現の可能性が非常に低い予想となってしまいました。

毎年、「びっくり10大予想」のアイデアについて、多くの方から協力を得ています。欧州や各地の動向の考察では、チームの新しい仲間であるアンダース・ニールセンにも協力してもらいました。元リサーチ責任者、友人、同僚からなる「第3木曜日の会」も例年のように貢献しました。
それでは、2023年のびっくり10大予想に移りましょう。2023年のサプライズの各項目については、2月のエッセイで詳しく解説する予定です。

2023年のびっくり10大予想

  1. 大統領選に向け党の候補指名を受けるために、民主党・共和党の両陣営から複数の候補者が選挙戦を展開します。両党の2024年選挙の公認候補者一覧に新顔が並ぶでしょう。
  2. FRBは依然としてインフレとの綱引き状態にあり、「政策転換」という言葉も「一過性」という言葉と一緒に棚上げされるでしょう。FF金利が米個人消費支出(PCE)物価指数を上回り、実質金利がプラスに転じるという、過去10年には見られなかった稀な現象が発生します。
  3. FRBはインフレ抑制に成功するものの、景気を抑制する領域に長く留まり過ぎてしまいます。緩やかな景気後退で企業の利益率が圧迫されるでしょう。
  4. FRBの政策引き締めにもかかわらず、市場は年央に底を打ち、2009年に匹敵する相場の回復が始まります。
  5. 過去に相場に大きな調整が入った時には必ず金融の「事故」が起きています。暗号通貨には大規模な調整が入りましたが、システマティック・イベントには至りませんでした。今回、財政赤字がインフレをもたらすことが証明されたので、現代貨幣理論(MMT)の信頼は完全に失墜しました。
  6. FRBは他の中央銀行に比べ強いタカ派姿勢を維持し、円やユーロなどの対主要通貨で米ドル高が続きます。ドルを元手とする投資家が、日本や欧州の資産に投資するための一世一代ともいえる機会が創出されます。
  7. 中国は5.5%の成長目標に向けてじりじりと前進し、欧米との強力な通商関係の再構築に積極的に取り組みます。これは実物資産やコモディティにポジティブな影響を与えるでしょう。
  8. 米国は最大の原油生産国となるだけでなく、最も友好的な供給国にもなります。原油価格は世界的な景気後退主導で下落しますが、これに加え、水圧破砕の拡大や中東・ベネズエラの増産も価格を下押しします。WTI原油価格は今年1バレル50ドルまで下げる場面がありますが、世界の景気回復に伴い2023年以降には100ドルに達するでしょう。
  9. 2023年前半はウクライナで爆撃、破壊、犠牲が続くでしょう。後半に入ると、双方の犠牲と戦費の面から停戦を余儀なくされ、領土分割交渉が開始されます。
  10. Twitterについて、広告主のサイト支援継続への消極的な姿勢や、同社の債務の質に対する債権者の懐疑的な見方にもかかわらず、イーロン・マスク氏は年内に同社を回復軌道に乗せます。

2023年の「番外編」

  1. 医学の進歩により、自分の死因となった病気の治療法が発見されたときに解凍されることを期待して、遺体の冷凍保存を決断人も珍しくなくなります。全国の葬儀社で、「It’s Nice to Be On Ice(治療法が見つかるその時まで、凍ってみるのもいいかもね)」と宣伝します。
  2. 石炭火力発電所から排出される二酸化炭素を削減する画期的な技術により、気候変動・地球温暖化の恐怖から解放されます。これを踏まえ、新興国が再生可能電源へ急速に移行するための政治的圧力が低下します。
  3. 米中の政策の不透明感から新天地を求め始めた製造業の誘致・定着のため、インドが真剣勝負を開始します。若年人口の多さ、比較的低い所得、成長する消費者市場を看板に、自動車、エネルギー、製薬、ハイテク分野への投資を奨励する政策を優先して、グローバルな多国籍企業の誘致キャンペーンを開始するでしょう。世界市場向けにそれぞれの主力スマートフォンの生産に成功したアップルとサムスンがこのコンセプトを実証しています。

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Market Insights 和訳版
本レポートは、ブラックストーン・グループ プライベート・ウェルス・ソリューションズのヴァイス・チェアマンであるバイロン・ウィーンとチーフ・インベストメント・ストラテジストであるジョー・ザイドルにより執筆されたマーケット・インサイト (2023​​​年1月4日発行)の和訳版です。本レポートは情報提供のみを目的としており、広告、特定の金融商品に関する投資助言・勧誘、及び販売等を目的としたものではありません。また、本レポートの一部または全部を、弊社の書面による事前承認なく第三者へ転送・共有することを禁じます。

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