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2021年は、より慣れ親しんだ環境へ

米国の選挙結果は大勢が決し、コロナウイルスに対しては、治療法の改善や検査体制の充足がみられ、何よりも複数の有効なワクチン開発が進展していることは朗報です。

来年の見通しについては、私達は楽観的な見方を据え置いています。日々のニュース見出しは、控え目に言っても、懸念が高まる内容ではあります。冬季に入り、人々が屋内で過ごす時間が増えたことで、新型コロナウイルスの患者数は再び拡大傾向にあり、学校もオンライン授業に戻り始めました。また、第1波の後で回復した雇用の多くが再び危機にさらされています。間違いなく、今後数ヵ月は厳しい環境となるでしょう。しかし、最近の目覚ましい進歩を忘れてはいけません。米国の選挙結果は大勢が決し、コロナウイルスに対しては、治療法の改善や検査体制の充足がみられ、何よりも複数の有効なワクチン開発が進展していることは朗報です。

これらはすべて、私達が数ヵ月前に予想していたよりも早い時期に、正常な、馴染みのある世界に戻れる可能性を示唆しています。ここでいう「正常」とは、ウイルス感染を恐れずに、かつての日常的な社会活動を再開することを意味します。子ども達は教室に戻り、旅行者は飛行機に乗り、労働者はオフィスに戻るといった具合です。このような状況が実現した場合、ロックダウン疲れで鬱積していた需要が解放されるとともに、にわか景気にわくことが予想されます。

正常化への時間軸

最近、私達は弊社不動産部門のアセットマネジメントチームとともに、予想される正常化の時期について、医療・保証サービス会社と討議しました。図表1は、米国で予想される時間軸の基本シナリオです。

図表1:米国におけるワクチン普及までの予想時間軸

この基本シナリオでは、2021年第1四半期末までに新規感染者数が安定し、治療によって概ね重症化に歯止めをかけられるようになります。また、効果的な抗体検査により、新たな症例を抑制できます。モノクローナル抗体、外来での抗ウイルス薬投与、在宅ケアの改善など、治療法が改善され、入院患者数は減少します。ステロイド、抗凝固薬、呼吸器への対症療法などはすでに有効性が証明されており、予後の改善につながるでしょう。

第2四半期までには、ファイザー、モデルナのワクチンが主流となっており、その他のワクチンも加わっている可能性があります。集団免疫はワクチンだけでは達成できませんが、有効性90%のワクチンを人口の半分が接種すれば、その達成に近づけます。新型コロナウイルスの再生産数(R0、感染者1人が何人に感染させるかを示す)は、平均で2.5人と推定され、この割合を基に考えると、集団免疫を達成するためには集団の60%が抗体を持つ必要があります1

第3四半期までに、低コストで、迅速に結果が判明する在宅検査が可能になるでしょう。導入が有望視される検査の種類にラテラルフロー方式が挙げられます。これは家庭用の妊娠検査薬と同様に機能するものです。このように低コスト(1~2米ドル)で結果が短時間で出る検査が普及すれば、無症状感染者が検査を受けることがはるかに容易になります。もう1つの例として、最近承認された、製薬大手アボットの新型コロナウイルス検査キット「バイナックスナウ(BinaxNOW)」があります。使用はまだ制限されているものの、スマートフォンアプリを使って、低コストで素早く結果が分かります。企業は顧客に対し、こうした迅速な検査の実施や、直近の検査結果の提示を求めることで「コロナ陰性」バブルを作り出し、安全を確保しながら、ビジネスを再開する環境を整えていくことでしょう。

もちろん、これらはトンネルの先に見える光であり、どのように展開するかの予測は正確にモデル化できるようなものではありません。また、国民が予防接種を受ける意思や、安全性の問題が発生した場合の様々なブラックスワン・イベントなども考慮しておく必要があります。また、コロナの感染再拡大に伴う人々の苦しみを過少評価したくはありません。世界の主要経済国では完全なロックダウンを再開し、欧州は今四半期マイナス成長に戻る可能性があります。新興市場国では、承認された薬剤を安全に輸送するために必要な低温保管サプライチェーンが整っていないことから、ワクチン接種プログラムが機能しない可能性があります。米国では、今回は広範なロックダウンを回避できる可能性が高い一方、対象を絞った局地的な閉鎖であっても、実施されれば経済および労働市場に大きな苦痛が広がる可能性があります。

選挙後のマクロ経済見通し

失業の長期化という拡大する問題
来年は景気が過熱する可能性があります。流動性と貯蓄の高まりが、経済封鎖後の移動制限解除と重なり、平均を大幅に上回る成長率を少なくとも一時的には達成できる可能性があります。一時的であっても、長期的な経済サイクルの基盤が構築されるでしょう。回復に向けた道程で、いま最も疑問視されているのは、連邦政府が拡充した失業給付や財政支援を延長するかどうかです。選挙後の機能不全に陥った議会とトランプ大統領が合意に達するとは考えにくい状況です。来年1月にバイデン新大統領が就任するまで、議会交渉の再開は望めないでしょう。

連邦政府が拡充した給付の一部(毎週600米ドルのパンデミック失業者支援など)は、すでに終了しました。議会が何らかの妥協に至らなければ、経済に永続的な傷跡を残す恐れがあります。米国労働省によると、7月と8月には約100万人が給付対象から外れ、9月には300万人が最後の給付を受け取りました。その数は上昇し続け、最大1,200万人のアメリカ人が年末に「給付の崖」に直面します2

ねじれ政府で問題は複雑化
大方が予想した民主党の圧勝は実現しませんでした。2020年の選挙に基づく州レベルでの党支配の変更は1944年以来、最も少なくなりそうです3。共和党は現在、30州の議会での大勢と26州の知事を維持しており、合計22州で完全な統制を有しています(民主党は15州)3。上院は共和党が多数派を維持する見通しで、ねじれ議会が続くと考えられます。民主党がジョージア州で決選投票となった2議席とも勝ち取ったとしても、定数100議席の上院は共和党50議席に対し、民主党50議席となり、採決で可否同数の際にはカマラ・ハリス次期副大統領が議決権を持ちます。しかし、ジョー・マンチン上院議員のような民主党穏健派が、議論の分かれる革新派の政策を支持する可能性は低いでしょう。

最高執行機関として達成可能な事案

CEOとしての大統領
こうした選挙結果は、バイデン次期大統領が掲げる政策の実現を難しくすることは確かですが、新政権がただ手をこまねくとは限りません。大統領には優先度の高い政策を実現する手段が豊富にあります。大統領は、米国最大の商品およびサービスの購入者である連邦官僚組織の最高経営責任者(CEO)であり、政府関連の契約における調達ルールを統制する権限を有します4

この影響は小さくありません。連邦政府による2019年度の商品およびサービスの契約は合計で5,860億米ドルを超え、政府の裁量支出の約40%を占めました5。大統領はCEOとして、連邦政府の職員約210万人の雇用を管理することもできます6。民間で国内最大の雇用者であるウォルマートの従業員数は約150万人です7。つまり、バイデン氏は政府の資金の使途を選ぶことはできませんが、どこに、どのように、向けるかをある程度、決めることができます。

大統領は就任直後から積極的な行動に
バイデン政権では、気候、教育、金融サービス、外交政策、国家安全保障、医療、移民などの分野で、早期に、かつ集中的に大統領が行動を起こすことが予想されます。バイデン氏は、気候変動に関するパリ協定への復帰や、自身が策定した気候変動対策計画の一部を達成するために大統領令を発動することを約束しています。また、留学生ビザの制限を撤廃し、トランプ政権が目指した「若年移民に対する国外強制退去の延期措置(DACA)」の廃止を覆すでしょう。また、トランプ大統領が執行したメディケイドの労働条件や労働補助金などの多くを逆転させることで、アフォーダブルケア法を強化する可能性も高いでしょう。

規制による政策形成
連邦政府の規制は過去40年間で着実に増加し、オバマ大統領の任期最後の2016年に過去最高となりました。転じて、トランプ大統領は就任から数週間以内に、大統領行政命令(EO)13771に署名しました。これにより、「2-for-1」ルール(別名「1つ通したら、2つ廃止」)が導入されました。この規則では、連邦政府機関は新しい規制を1つ追加するごとに、廃止すべき規制を2つ特定する必要があります。

図表2のとおり、連邦規制の負荷を示す連邦官報のページ数は、1年足らずの間に36%減少し、1947年以来最大の減少幅となりました8。バイデン大統領の就任初年度には、これが逆転し、エネルギー、気候、金融サービス、教育、労働に関する優先政策を達成するために、多くの行政命令や規制が発動されることが予想されます。

図表2:米国連邦規制の推移

出所:連邦官報事務局、ハーバー・アナリティクス( 2019年12月31日現在)。この系列データは、毎年新たに制定された政府規制の流れを追跡し、連邦規制の負荷の指標として使用されています。

財政政策では共通の基盤が必要に

政策立案はおいそれといかない
トランプ大統領が米国政治の中枢を離れた後も、両党間の深い亀裂が残る公算は高いと考えられます。例えば、下院民主党が可決した2兆1,000億米ドルのパンデミック支援策に対してトランプ政権が提示したのは1兆8,000億米ドルでした。当時、ミッチ・マコーネル上院多数党院内総務が提案したのは、さらに小規模で対象を絞った5,000億米ドルの対案であったことを踏まえれば、両党の提案には大きな隔たりがあり、この件に関するトランプ大統領の独自案はかなり民主党案に近いものだったことが分かります。

妥協案の可能性
バイデン次期大統領が自身の掲げる政策を実現する手腕はいかほどでしょうか。これらの政策実現は非常に困難な作業ですが、上院で共和党が優勢となっても、バイデン氏が上院の元同僚マコーネル議員と旧知の間柄であることから、妥協案を探れると考えています。政策論争における瀬戸際戦術を幾分控え、政府の資金確保など基本的なガバナンス課題についての交渉が円滑化されることが期待されています。妥協できる分野としてはコロナ救済策、国内の雇用創出と投資を重視するバイデン氏の「メイド・イン・アメリカ」プラットフォームの部分的要素、特定の国家安全保障政策などが挙げられます。これらについては、一部の共和党議員は現政権と意見を異にしていました。

財政支援は大きな賭け
コロナの感染再拡大に伴う各地の封鎖再開や規制から生じる経済的な悪影響を緩和するため、追加財政支援が必要となります。大規模な追加財政刺激策が発動されない場合、連邦準備理事会(FRB)が、回復支援策の拡充を強いられると予想されます。FRBは12月の会合で、財政交渉の進展(あるいはその欠如)を議題にするとみられます。景気回復がリスクにさらされる中、財政支援を当てにできないと判断した場合、FRBはゼロ金利と新たな資産購入プログラムに関する経済的な成果重視のフォワードガイダンスを強化する可能性があります。

政策による機会創出

政策の転換に続く、投資機会
新しい政策が実施されると、経済の複数のセクターで投資機会が発生すると予想されます。国内投資が特に急務となっているのは、医療サプライチェーンです。米国では医薬品、医療機器、個人保護具(PPE)を輸入に大きく依存しており、医薬品に限っても年間1,320億米ドル以上が輸入されています9。貿易戦争により、このトレンドが注視され始めましたが、パンデミックによって一段とその重要性が高まりました。たとえば、今春にコロナ第1波が襲い危機的状況に陥った時、月間で約3億枚のN95マスクが必要とされたにもかかわらず、米国内で製造されていたのは月間約5,000万枚でした10。また、抗生物質や鎮痛剤などの一部の重要な医薬品サプライチェーンについて、米国はほぼ完全に輸入に依存しており、この分野での投資機会にも関心が集まっています。

将来の公衆衛生の緊急事態に備えて、各国が備蓄補充を進めれば、医療用品の需要は増加する一方でしょう。「6月のエッセイ(Waking from the Slumber)」で触れたように、コロナが猛威を振るう前でも、米国の医療機器需要は2023年までに1,060億米ドルを超えると推定されていました。FRBの最近の試算では、米国の重要医療用品の貿易赤字は過去10年間で倍増しました。手指消毒薬、マスク、手袋などの単純な製品から人工呼吸器や酸素マスクなどの複雑な医療機器までを含めた製品の赤字は、2012年の7%から2018年には14%に増加しました11

今後の政策では、こうした医療用製品の国内増産を目指すことが予想されます。同時に、新型コロナウイルス感染症が過去20年間で4つ目の呼吸器系伝染病であることから、空気の質向上への投資は医療における重要なテーマとなる可能性があります。エアロゾル感染に関する理解が深まってきており、それが屋内空間の設計再考につながるでしょう。省エネ性の向上が数十年続いた後、現在の建物は密閉性が高くなっています。今後は、ライフサイエンスパークが、手がかりになるのではないでしょうか。「軽」ライフサイエンス(実験研究所ではなく、コンピューター解析や調査を行う)がもたらした技術がオフィスビル、航空機、住宅、自動車などの設計に影響を与えることでしょう。

これらのテーマについては、「2021年のびっくり10大予想(英語版は1月4日リリース予定、続いて日本語版も配信予定)」、および1月7日に公開予定の四半期ウェビナー(英語版)で詳しく解説します。それでは皆様、素敵な年末のホリデーシーズンをお過ごしください。


  1. Centers for Disease Control and Prevention, as of 9/10/20.
  2. US Department of Labor and the Century Foundation, as of 11/18/20.
  3. National Conference of State Legislatures, as of 11/11/20.
  4. Gitterman, Daniel Paul. Calling the Shots: The President, Executive Orders, and Public Policy. Washington, D.C.: Brookings Institution Press, 2017.
  5. US Government Accountability Office, as of 5/28/20.
  6. Congressional Research Service and Office of Personnel Management, as of 10/23/20.
  7. Fox Business, as of 6/19/20
  8. Office of the Federal Register and Haver Analytics, as of 12/31/19. This series is used to track the flow of new government regulations each year and as a proxy for the federal regulatory burden.
  9. US International Trade Commission, as of 12/31/19
  10. Holland & Knight, as of 4/13/20.
  11. Federal Reserve Bank of St. Louis, as of 4/8/20

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Market Insights 和訳版
本レポートは、ブラックストーン・グループ のチーフ・インベストメント・ストラテジストであるJoe Zidleにより執筆されたマーケット・インサイト (2020年12月発行) の和訳版です。本レポートは情報提供のみを目的としており、広告、特定の金融商品に関する投資助言・勧誘、及び販売等を目的としたものではありません。また、本レポートの一部または全部を、弊社の書面による事前承認なく第三者へ転送・共有することを禁じます。

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