マーケット・インサイト

新型コロナ後の経済成長とテクノロジー進化の行方

そこで今月は、弊社シニア・マネージング・ディレクターの、Jasvinder Khairaを招き、彼が注目しているテクノロジー・トレンドを考察したいと思います。まずその前に、最近のテクノロジー・セクターの成長の背景にあるマクロ環境について私の見通しをお伝えします。

熾烈な大激戦になることが予想される、米国大統領選挙まで1ヵ月を切り、先行きが不透明な英国のBrexitの期限も近づいています。通常の年であれば、目前に迫るこうした主要な地政学的イベントは市場を翻弄するに十分と言えるわけですが、これらに加え、新型コロナウイルス拡大に起因する世界経済、金融市場、価格ボラティリティ、投資家センチメントの激動が加わったことで、2020年は極めて特異な状況にあります。

ウイルスの公衆衛生へのリスク評価において、その自己複製力が重視されますが、新型コロナウイルスは非常にその能力に長けています。この秋冬は、感染拡大の第2波が発生する危険性をはらんでいます。ただし、多くの治療薬が開発途上にあることから、画期的なワクチンが意外に早く登場するのではないかと個人的には楽観的に考えています。幸いなことに、医療従事者は第1波の感染者の治療以降、新型コロナに関する知見を深めてきました。そのため、今後の感染拡大では広範囲に及ぶ経済封鎖も避けることもできるのではと楽観視しています。

しかし、新型コロナウイルス感染症は世界経済に長期的なダメージを与え続けており、完全な回復には年月を要すると予想されます。これを受けて、中央銀行よる空前の規模の金融緩和策の継続が見込まれる一方、経済への限界効用は低下の一途をたどるでしょう。また、低成長、インカム水準の低下、不安定な金融市場など、投資家を取り巻く投資環境は厳しさを増すと考えられます。

投資家はコロナ時代に高成長が見込める領域として適切にテクノロジー・セクターに目を向けましたが、最近では、センチメントとバリュエーションの両面で行き過ぎにも見えます。そこで今月は、弊社シニア・マネージング・ディレクターの、Jasvinder Khairaを招き、彼が注目しているテクノロジー・トレンドを考察したいと思います。まずその前に、最近のテクノロジー・セクターの成長の背景にあるマクロ環境について私の見通しをお伝えします。

分断されたブルマーケットへようこそ

私たちは今後、経済成長の鈍化、記録的な規模の債務負担、生産性の低下、金融政策の柔軟性低下など、数々の課題を抱える投資環境に備える必要があります。財政政策の方向性は、11月の選挙の結果次第であり、不確実ですが、連邦準備制度理事会(FRB)や世界各国の中央銀行は、過去最高水準の金融政策支援で、この逆風に対抗していくでしょう。この過剰流動性相場では、厳しさを増す企業ファンダメンタルズとの乖離が更に拡大するというのが私の見解です。

残念ながら、先進国では財政刺激策が、かつてほどの効力を発揮しなくなってきました。1980年代には、米国の連邦債務1ドルは約1.42ドルの経済成長をもたらしました1。しかし、直近10年の連邦債務の生産性はその半分以下、1ドルの連邦債務に対しわずか70セントのGDP成長しかもたらしていません。図表1は2つの期間における連邦債務とGDPの累積的な変化を示しています。

図表2 :米国のエネルギー消費量
(1900~2009年、単位:1,000兆 英国熱量単位)

出所:経済諮問局、米国行政管理予算局、Haver Analytics、2019年12月31日現在。連邦政府総債務額は会計年度毎。

この現象は米国独自のものではなく、高齢化が影響している可能性があります。国際通貨基金(IMF)が最近実施した調査から、政府支出が経済成長にもたらす効果と高齢化が関連していることが判明しました。高齢化が進んでいない経済では、政府が支出をGDPの約1%相当増加すると、経済による生産は0.6%押し上げられます1。高齢化が進んでいる経済の場合には、同様の政府支出の増加は統計的に有意な生産の増加につながりませんでした。生産増加につながらない債務を増やせば、追加刺激策は未曾有の資産価格インフレという、意図しない結果を生む可能性があります。

S字型成長曲線

このように分断された市場において、新たな投資機会を見つけることは極めて重要となります。テクノロジー・セクターの成長性は十分に評価されていますが、投資家は上位企業への集中リスクに留意しなければなりません。S&P 500®の主役は、1999~2000年のテクノロジーバブルのピーク時に比べ、現在ではさらに少数の企業に集中しています。S&P 500種指数の上位5銘柄が同指数の時価総額に占める割合は、2020年第1四半期末時点で18%でしたが、現在は24%と過去最高水準になっています2

Facebook、Apple、Amazon、Netflix、Google、Microsoft(FAANGM)は、急拡大する増収増益の恩恵を受け、S&P 500種指数の構成銘柄全体よりも合計で50%高い利益率を達成しています。そして、今年の過剰な流動性と、他のセクターにおける投資機会の欠如も手伝ってか、これらの銘柄のバリュエーションは今後12ヵ月の収益予想に対し40倍と、過去最高に押し上げられました3。これらの企業が将来のイノベーションを収益化する可能性は高いと言えます。しかし、成長は思い描いたとおりに進むとは限りません。投資家は爆発的成長に翻弄されないように注意が必要です。むしろ、成長軌道はS字型を描くことを認識するのが重要です。

飛躍的な成長は一時的なものです。それが企業収益、投資収益あるいは技術革新であれ、急激な成長の後には必然的に減速が続きます。最も一般的な成長軌道はS字型を描くもので、成長率は非常に低いところからピークへ向かい、成長過程が成熟するにつれて、低位に戻ります4。したがって、企業の成長曲線において、低成長から飛躍的な成長への移行期に投資することが出来れば、成長の成熟期での投資に比べ、限りない業績成長を享受できる見込みが高まります。

今後もテクノロジーは革新を続け、ディスラプションを起こし、投資家に魅力的な投資機会を提供すると予想されます。以下、Jasvinderによるテクノロジー投資の新たなトレンドは、当セクターの未来を示唆する興味深い見解です。

次世代テクノロジー
(以下、“家庭用光ファイバーの普及”までJasvinder Khaira著)

成長のサイクルをS字型として概念化して成長を理解するJoeの手法は、情報時代のテクノロジー企業の現状を把握するのに役立ちます。例えば、図表2は米国の石油消費が20世紀の大半(いわゆる「石油と自動車の時代」)を通じて飛躍的に増加し、その後、急減少に転じた様子を描き出しています。

出所:EIA(1900~2009年)

図表3と図表2を比較してみましょう。Ciscoの分析によると、デジタル化の進展に伴い世界のインターネット通信量は急増しており、今後10年間は減速の兆候が見られません。

図表3 :世界のインターネット通信量
(1984~2020年、単位:10億ギガバイト/月)

出所:Cisco、2020年3月9日現在

近年、私たちのチームは、この成長を活用した投資機会に照準を合わせ、次世代のテクノロジー企業を形成する新たなトレンドの特定に取り組んできました。主要なトレンドとして次の4点を挙げます。

1) 過小評価されているクラウド
AI(人工知能)や5G(第5世代移動体通信システム)の潜在成長性については多くのアナリストが強調していますが、コンピューティングの進化としてのパブリッククラウドは実際にはまだ過小評価されており、長期的に大きな経済的価値を創出し続けると考えます。その理由の1つは、クラウドによるコンピューターの利用が、いまや公益サービス性を帯びてきていることです。Netflix、PayPal、Salesforceといった、今日のテクノロジー企業最大手の多くはサービスベースのプラットフォームであり、クラウドなしでは存在しません。

モバイル端末がクラウドに接続したことで、今日の新しい消費者エコシステムが実現しました。クラウドを利用して消費者は、商品を購入し(Amazon)、コミュニケーションをとり(Facebook)、関係を構築し(Bumble、オンラインのマッチングアプリ)、移動し(Uber)、宿泊します(AirBnB)。クラウドを利用することで、プラットフォームサービス企業が活躍する場は、今後10年でモバイル端末を超えた領域に及ぶでしょう。産業経済に組み込まれた多様な端末に接続し、自動車、倉庫、工場、医療システムを管理し、コスト削減とパフォーマンスの向上に寄与することが期待されます。

Amazon、Microsoft、Googleは世界の3大ハイパースケーラーで、クラウドアーキテクチャの構築で競い合っています。図表4は3社の設備投資の累積額です。こうした企業の飛躍的な成長は、パブリッククラウド分野での壮大な機会を期待させるものであり、Joeが述べたS字型の成長曲線を例示しています。中国も負けておらず、Alibaba、Tencent、Baiduなど、成長と投資への意欲に引けを取らない自前のハイパースケーラーが存在しています。こうした背景から、世界のパブリック・クラウド・サービスの収益は、2019年から2022年にかけて1.1兆ドルを上回ると予測されています5

図表4: 三大ハイパースケーラーの設備投資累積額
(2001~2020年第2四半期、単位:10億米ドル)

出所:Bloomberg

2) データセンター:クラウドの存在する場所
ハイパースケーラーの成長ぶりは、強力な重力により、資本と新規事業が彼らの軌道に吸い寄せられているかのようです。クラウドの最も基本的な構造はデータセンターです。現在、世界中に5,000を超えるエンタープライズまたはハイパースケールのデータセンターが存在し、パブリックおよびプライベートクラウドをサポートしています。エンタープライズ・データセンターの総面積は、世界の高層ビルの総面積を超えており、今後も高度成長が続くことからも、その規模をうかがい知ることができます6

ハイパースケーラー向けデータセンターの構築に必要な資金は、同じ広さの産業用倉庫に比べ、1平方フィート(約0.093平方メートル)あたり50%増しとなります。しかし、データセンターの賃料は倉庫の賃料に比べ1平方フィートあたり200%高くなっています7。現在は米国が情報インフラの中心地ですが、今後10年でスペイン、イタリア、ポーランド、日本、インドネシア、インドなどの新興ハイパースケール市場における新しいアベイラビリティゾーン(AZ)やコアノードが存在感を増すでしょう。

業界の最大の課題の1つは消費電力です。2017年に世界のデータセンターが消費した電力は、英国のエネルギー消費量全体を40%上回りました8。そのため、今後のデータセンター開発では、電力効率、冷却、再生可能エネルギーの調達が重要性を増しています。

3) エッジが基盤となる生活:「モノのインターネット(IoT)」
メディアでは自動運転車や仮想現実など、5Gが生活ににもたらす変化について盛んに取り上げられています。しかし、大手モバイル企業と話した印象では、最初の大規模な実装は鉱業およびエネルギー産業におけるスマートマニュファクチャリング、倉庫オートメーション、リモートアプリケーションなどになると考えられます。

何よりも、これらのシステムが人間や現実のモノと接触するには、リアルタイムのデータが必要です。5Gでは、スマートフォンやスマートセンサーなどのモバイル端末をネットワークの「エッジ」、つまり、人とモノのデジタル世界への接続点として利用します。しかし、このインフラストラクチャエッジ方式でこれらの端末をアグリゲーションポイントやモバイルコアに接続するには、5Gへの多大な投資が必要となります。インフラストラクチャエッジは、光の速度という不変の制約に対するソリューションです。結果的に、高密度ファイバー、スモールセルタワーサイト、プライベートLTEネットワークへの投資機会が得られるでしょう。

世界の大手産業企業にはさらに大きなチャンスがあり、Emerson Electricなどは1,000億ドル以上の導入実績を持ちます9。インフラエッジを使用することで、これらの企業は装置企業からデータ企業に変革することができます。プロセスは複雑ですが、論理的根拠は簡潔です。センサーを使用してデータを収集し、顧客の収益性を高めるソフトウェアや定期的なサービスを顧客に販売できれば、もはや新しいセンサーを販売する理由はなくなるでしょう。

4) 家庭用光ファイバーの普及
Intelの共同創設者であるゴードン・ムーアが提唱したムーアの法則は有名ですね。マイクロチップに搭載できるトランジスター数が2年ごとに倍増するというものです。これは、近年の歴史で最もよく知られている、一貫性のある指数関数の1つです。一方で、図表5が示すとおり、インターネットの速度とネットワークアクセスが過去35年で激増したことは、それほど知られていません。

図表5 :インターネット接続速度
(1984~2019年)

出所:ニールセン・ノーマン・グループ、2019年9月27日現在

新型コロナウイルスは、家庭での高速ブロードバンド利用を加速させました。移行があまりに速まったため、2020年には米国最大のケーブル会社のブロードバンドインターネット事業の収益が同社の映像配信事業の収益を上回るという転換点を迎えました。さらに、ここ数年でコンテンツビジネスの拡大やプログラミングのコストが上昇する中、ブロードバンドの収益性は相対的に大きく向上しています。

ネットゲームや、今では広く普及したZoomなども後押しとなり、消費者は我先にとインターネットの高速化を求めています。企業は銅線ではなく光ファイバー技術を使用して、インターネット接続速度を理論上の限界までアップグレードしたいと考えています。地方の既存通信事業者やケーブル会社は設備投資を行ってラストマイル・ネットワークを光ファイバーで再構築しています。一部の市場では、新規参入した競合が光ファイバーに限定したブロードバンドシステムで既存企業を潰しにかかっています。これらの企業はケーブル会社に似ていますが、消費者がブロードバンドサービスだけを購入するため、プログラミングコストやコンテンツコストがないことから、利益率は高くなります。

成長課題と投資機会

Jasvinderの考察は時宜を得ています。というのも、多くの投資家が規模の安全性を追求し、保有銘柄をわずか数社のハイテク大手に集中しているからです。しかし、飛ぶ鳥を落とす勢いのテクノロジー・セクターも、大きな成長の可能性がある一方、リスクがないわけではありません。FAANG+現象を生み出した飛躍的な成長はすでに広く認識されています。また、厳しい経済環境の中で、政策当局は金利を過去最低水準に抑え、財政出動を駆使して、捉えどころのない成長とインフレ目標を支える必要があります。その結果として、企業が直面する低成長・債務超過環境を反映しない、割高なバリュエーションとスプレッドのタイト化が市場で生じることなります。

しかし、新型コロナウイルスによって表面化したその他のトレンドと同様に、テクノロジーなどの成長機会が豊富なセクターにとって、このパンデミックはその成長性を加速する追い風となりました。コロナ禍以前から存在したテーマもありますが、サプライチェーンの国内回帰、米国内の北部州や中部州からの人口流出、継続的なEコマースの普及など、一部のテーマは米国に根を下ろす可能性が高いとみられます。加えて、ワクチンの進歩などの新しいテーマは、コロナ後の世界の有様を形作っていくでしょう。成長サイクルの早い段階での高度成長を実現し、次なる超過収益の潮流をもたらす可能性を秘めた企業群を、明らかにすることが期待されます。


  1. IMF Working Paper No. 20/92, as of 6/12/20.
  2. Ned Davis Research, as of 8/31/20.
  3. I/B/E/S data by Refinitiv, as of 9/18/20. “FAANGM” stocks include: Facebook, Amazon, Apple, Netflix, Google (Alphabet) and Microsoft. Note: Both classes of Alphabet are included.
  4. Smil, Vaclav. Growth: from microorganisms to megacities. Cambridge, Massachusetts: The MIT Press, 2019.
  5. Gartner, Inc., as of 7/23/20.
  6. Mills, Mark P. Digital cathedrals. New York, New York: Encounter Books, 2019.
  7. Internal Blackstone analysis.
  8. Forbes, as of 12/15/2017.
  9. Emerson Electric, as of 2/13/20.

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Market Insights 和訳版
本レポートは、ブラックストーン・グループ のチーフ・インベストメント・ストラテジストであるJoe Zidleとシニア・マネージング・ディレクターのJasvinder Khairaにより執筆されたマーケット・インサイト (2020年10月発行)の和訳版です。本レポートは情報提供のみを目的としており、広告、特定の金融商品に関する投資助言・勧誘、及び販売等を目的としたものではありません。また、本レポートの一部または全部を、弊社の書面による事前承認なく第三者へ転送・共有することを禁じます。

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