リスクは残るが明るい幕開け

バイロン・ウィーンによる、今年で38年目を迎える2023年の「びっくり10大予想」

ストラテジストとエコノミストの4分の3は、まだ今年後半のどこかで景気後退に入ると予想していますが、経済はまだ堅調で、インフレ率は低下しています。2023年の「びっくり10大予想」では、緩やかな景気後退を前提に、それが米国内外での投資機会につながると見ています。インフレの再来により金融政策が引き締め的となる可能性が高く、現在の上場市場全体のリターンはコロナ前の過去10年より低くなる可能性が高い局面であると言えます。

「びっくり予想(サプライズ)」とは、平均的なプロ投資家は3分の1程度の確率しか見込んでいないものの、私たちは50%以上の確率で発生すると信じているイベントと定義しています。単なる逆張りや、高得点の獲得を目指すわけではなく(高得点を取れば嬉しいのですが)、私たち自身や読者の思考の枠を押し広げることを目的としています。

1つ目のサプライズでは、メディア等は2024年の大統領選挙に注目すると認識しています。前述したサプライズの精神に沿って創造力を働かせた結果、2人の筆頭候補者はそれぞれ出馬を断念すると考えています。様々な理由で2期目の大統領選に出馬しないことを選択した米国の大統領はこれまでに6人いました。バイデン大統領は、1期目に達成した一連の立法上および政策上の成果を背景に、7人目になることを選択する可能性があります。バイデン大統領は、インフレ抑制法やインフラ投資・雇用法など立法上の成果を誇示することができます。加えて、民主党が大方の予想より健闘した中間選挙の結果は、バイデン大統領の名声をさらに高めました。バイデン大統領は、90歳を迎えて引退し、実りの多かったな1期目を足掛かりに再選を図らなかった唯一の大統領になる可能性があります。

ドナルド・トランプ氏については、大統領選への出馬が共和党におけるキングメーカーとしての立場を悪化させかねないと自身が判断することでしょう。トランプ氏は、大統領に返り咲くと決心しているものの、失望させたくない揺るぎない支持基盤を持つだけに、彼にとって出馬するかどうかを決めるのは厳しい選択でしょう。しかし、結局のところ、トランプ氏は名声を遺す他の役割に関心を向ける可能性が十分にあります。

2つ目のサプライズでは、米連邦準備制度理事会(FRB)は金融政策の引き締めを維持すると考えています。ほとんどの株式市場参加者は、インフレ率が低下しており、イールドカーブが既に歴史的に顕著な景気後退シグナルである逆イールドになっているため、FRBはまもなく「転換」すると予想しています。FRBは2%のインフレ目標達成に強い覚悟を持っていると私たちは考えています。FRBは、経済の他の側面を評価しつつ、個人消費デフレ物価指数が4%(今は約5%)になれば、停止するかもしれませんが、最終的な2%のインフレ目標は維持するでしょう。FRBは、フェデラル・ファンド・レートがインフレ率を上回るように確保することで、プラスの実質金利を生み出そうとしています。一般に予想されているように、政策金利が5%に達する一方で、インフレ率が4%に低下するならば、FRBはプラスの実質金利を達成します。しかし、それでもまだ、4%のインフレ率は高過ぎるとみなし、その結果、金融引き締め的な姿勢を維持するでしょう。金融政策は1~2年遅れて効果を発揮します。昨秋に始まったFRBのバランスシート縮小は、今年後半に影響を及ぼし始めると見込まれます。効果が感じられ始めれば、FRBは利下げを検討することができるものの、今のところ、「政策転換」という言葉も「一過性」という言葉と一緒に棚上げされるでしょう。

3つ目のサプライズについては、FRBがこれまで実施してきた引き締めにもかかわらず、米国経済は依然として堅調であると考えています。雇用者数は月間20万人を超えるペースで増加し続けており、企業業績は依然として堅調です。しかし、この継続的なモメンタムは、FRBが金融引き締め政策の長期化を決定するための要因の一つとなっています。その結果、インフレ率が前年比で低下しやすくなり、マネーサプライの伸びを鈍化させた効果が遅行して現れてインフレ率がより低下しても、FRBは金融引き締め政策を引き延ばす可能性があると私たちは考えています。少なくとも、景気後退に陥るとしても、今年後半まで先送りになると私たちはみている一方、景気後退は前半に始まるというのが大方の予想です。私たちは、労働市場の著しい逼迫に加え、堅調な名目利益の増加が、景気後退を緩やかなものにする可能性があると考えています。それでも、経済成長の鈍化は、利益率をコンセンサス予想以上に圧迫すると見込まれます。

4つ目のサプライズは、今年後半のどこかで、市場に関するニュースが最も暗いと見込まれる時に、投資機会が生じることです。2020年3月、新型コロナウイルスの感染が拡大する中で、マーケットの調整によって多くの興味深い投資機会が生み出されましたその市場環境から学んだように、以前の環境にすぐに戻ると想定するべきではありません。すべての景気後退には後遺症があります。それは、リモートワークの増加、モノよりもサービスや体験に所得からの支出を割く比率の上昇、より保守的な企業の設備投資方針などに見られます。新たなサイクルが始まりますが、私たちが以前から言ってきたように、リターンは過去10年より低くなりそうです。金融・財政政策は、引き締め・緊縮に転じると見込まれます。

相場の大きな調整が、金融の「事故」を生み出す傾向がありますがこれが5つ目のサプライズです。金融市場に影響を与える予想外の出来事が起こるでしょう。多くの暗号通貨や関連企業の破綻は、今の景気サイクルの「事故」と言えます。別の最近の惨事は、不換通貨(中央銀行が発行する通貨)の国は必ずしも好ましくないインフレを引き起こすことなく、永久に赤字を抱えることができると考える現代貨幣理論(MMT)が概ね信用を落としたことと思われます。しかし、私たちの直感では、それ以外にもあります。ウクライナ戦争や中国の経済・政治政策に関連しているかもしれません。金融の「事故」は市場に影響を及ぼし得るため、警戒が必要になります。

米ドルが6つ目のサプライズです。米ドルの強気相場がしばらく続いており、私たちはまだ大半の人々より強気です。欧州の景気後退とエネルギー問題、中国の景気減速と地政学上の問題を背景に、法体系と強い軍隊を踏まえると、米国はまだ望ましい投資先と思われます。FRBは他の中央銀行より強いタカ派姿勢を維持する可能性が高く、債券から得られるリターンは依然として魅力的と考えられます。この見方が正しければ、米ドルは強含むでしょう。欧州と日本の株式は下落しており、通貨も下落してきたため、米ドルを基準通貨とする投資家は、これらの地域の資産を魅力的な価格で購入できる優位な立場にあります。世界経済が回復し、米ドルが堅調を維持する中で、株式と債券はともに上昇する可能性があります。

7つ目のサプライズは中国に関するものです。中国の目的は、少なくともこれまでの5.5%の成長目標を達成することですが、その見込みはありません。コロナ問題が継続するとともに、一部の製造工場が東南アジアやインドに移転し、米国や欧州に戻る中で、中国がすぐに以前の成長目標を達成する見込みはないでしょう。高齢化や多くの貿易相手国との緊張関係もあります。目先、最大でも3%~4%程度の経済成長を期待すべきでしょうしかし、サプライズは、中国の景気回復が続き、その成長目標に向けてじりじりと前進し始めることです。中国経済が全面的に再開すれば、その成長率は前年比で上昇しやすくなっていることから恩恵を受けるでしょう。加えて、米国は中国の最も重要な貿易相手国であるため、米中間の困難な地政学的関係のある程度の雪解けを予想しています。中国は困難な時期を経験してきており、米国のように、経済成長がすぐに2019年の水準に戻る見込みはありません。私たちは、経済成長の復活と国内の安定が習近平国家主席の主たる目的であると考えています。

米国が景気後退に陥る可能性と米国外の景気減速を受けて、WTI原油価格は、1バレル当たり50米ドルに下落しておりますが、これに関することが8つ目のサプライズです。欧州と米国が二酸化炭素排出量を削減するよう懸命に取り組んでいる一方、中国とインドは引き続き発電のため大量の石炭を使用しています。ウクライナ戦争を原因とする欧州のエネルギー危機は概ね収まってきましたが、サウジアラビア、イラン、米国の間に依然として緊張関係があります。一般的なコンセンサスは、二酸化炭素排出を完全に停止するには長年を要するというものです。それと同時に、電気自動車が市場シェアを獲得すると全面的に予想していますが、これも時間を要します。私たちは昨年、1バレル当たり100米ドルの原油価格を予想し、その予想は異なる理由でしたが的中しました(経済成長ではなくウクライナ戦争が原因でした)。今後、再び100米ドルに達すると予想していますが、今年ではないかもしれません。

ほとんどの人は、ウクライナで消耗戦が延々と続くと予想していますが、私たちは有意な停戦が年内に起こると見ており、それが9つ目のサプライズです。戦闘は両サイドで大惨事をもたらしています。数百万の人々が家を失い、都市全体が破壊されています。戦争はロシア国内でウラジミール・プーチン氏に現実的な問題を引き起こしており、同氏はまだ権力を掌握していますが、これまで以上に多くの暴動が発生しています。両サイドとも領土を放棄することに消極的です。ウクライナは、2014年の国境を回復し、クリミア半島の支配を取り戻したいと考えています。プーチン氏は、現在の占領地をすべて維持し、おそらくロシア語圏をさらに拡大したいと考えています。多くの兵士を失い、多額の支出をした後で、何も得ずにウクライナから撤退することは屈辱的でしょう。和平合意が成功する可能性は低いものの、停戦の見込みは高いでしょう。その後に何が起こるかを注視します。停戦は確実に世界中の金融市場を上昇させるでしょう。

最後のサプライズは、既に波乱のスタートを切っています。毎日のように従業員や広告主がTwitterから離れているという記事を読みますが、イーロン・マスク氏は年末までに同社を立て直すと私たちは考えています。Twitterへの投資は既に同氏に高くついており、同氏は払い過ぎたと主張している一方、テスラ株は急落しています。Twitterはオフィス賃料の一部を支払っておらず、その他一部の費用の支払いが遅れており、規制当局の調査が入っているとのことです。一部のTwitterユーザーは、他のソーシャル・メディア・プラットフォームに移っています。同社が以前の状態に戻るのは容易ではないと見込まれ、そこからの成長はさらに難しいでしょう。イーロン・マスク氏が設立した自動車メーカーには、ある時点で同社以下の自動車メーカー10社の企業価値を足し合わせた以上の価値がありました。同氏がTwitterを立て直し、最終的に氏の投資が正しいと証明できるかどうかを注視します。

毎年、起こる確率が50%以上とは考えられないか、あるいは「びっくり10大予想」ほど考えを広げるものではないため、「びっくり10大予想」には入らない複数のサプライズがあります。私たちは常にいささか思いつきのサプライズを考慮しており、1つ目の「番外編」のアイデアは、遺体の冷凍保存が実用化されるというものです。今やおよそネットフリックスの会費程度で人体を冷凍保存することができます。死に至った病気の治療法が開発された場合、理論的には、解凍して生き返ることができます。私たちが想像するシナリオでは、冷凍保存処理を行う葬儀社は、「It’s Nice to Be On Ice(治療法が見つかるその時まで、凍ってみるのもいいかもね)」と宣伝します。

番外編の2つ目は、石炭火力発電所の二酸化炭素排出量を削減する技術開発が公表されるというものです。これは大気汚染水準の世界的な改善目標を達成する可能性を大きく向上させ、地球温暖化と気候変動の危険を緩和することに役立ちます。

3つ目の番外編は、インドが低コスト製造国としてますます重要になるというものです。中国との緊張関係がこの背景にありますが、インドは、法の支配の下で運営され、英語圏であることなど、グローバル投資の観点から魅力的な特性を有します。インドは、若年者人口が多く、労働コストが低く、消費者市場が拡大しており、投資を奨励する政策を講じています。エネルギー、テクノロジー、自動車セクターの一部の企業は既にインドで操業しており、アップルやサムスンは同国内で主要のスマートフォンを生産しています。インドは、労働人口が今後10年で著しく増加すると予想される唯一の主要国です。

以上が2023年の「びっくり10大予想」です。今後の展開を注視していきましょう。

Taylor Beckerは、「びっくり10大予想」の調査と当資料の執筆に貢献しました。


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