政府の優遇措置が、経済の重心を動かす
概要
- 変化するサプライチェーンと成長の核
- 政府の優遇措置が新規投資を促進
- ニアショアリング（隣国でのサプライチェーン再編）とオンショアリング（自国でのサプライチェーン再編）の長期的なプラス効果
経済成長を促進するための政府の優遇措置は今に始まったことではありません。20世紀初頭の石油・ガスセクターの発展から、1980年代に始まった税制を通じた研究開発計画の実施まで、数多くの事例がありました。今日、政府はインフレ抑制法（IRA）、CHIPS・科学法、インフラ投資・雇用法（IIJA）を通じて、サプライチェーンの近代化と製造業の高度化を目指しています。
大まかに言えば、これらの歴史上重要な法案は、ニアショアリングやオンショアリングのマクロトレンドと相まって、コモディティ、インフラ、運輸、住宅、物流にとってプラスに働くと予想しています。しかし、経済への潜在的な影響を評価する上で、インフレと労働市場の供給不足という背後に潜む流れを軽視することはできません。
サプライチェーンはすでに不安定だった
中国との貿易戦争が激化した2018年、企業はサプライチェーンの多様化を検討し始めました。ベトナムやインドネシアに事業拠点を移した企業もありましたが、中国との関係を完全に断ち切った企業はほとんどありませんでした。ところが、コロナ禍をきっかけに態度が変化しました。グローバル・サプライチェーンを担当する経営幹部を対象としたマッキンゼーの調査によると、自社のサプライチェーンを調整したと回答したCEOの割合は、2020年のわずか15%から42%に増加しましたi。2023年の世界の貿易の流れはこのトレンドを裏付けています。上半期を通じ、メキシコとカナダが中国を抜いて、米国への財の供給で1位と2位になりました。メキシコへの外国直接投資（FDI）は年率41%と急増し、2023年上半期には過去15年間の平均の2倍となる290億米ドルに達しましたii。同様に、カナダでもFDIは前年同期比19%増と大幅に伸び、2023年上半期にメキシコの総額290億米ドルと肩を並べましたiii。
投資＝成長
2022年8月にインフレ抑制法とCHIPS・科学法が、2021年11月にインフラ投資・雇用法が成立して以来、製造業、インフラ、クリーンエネルギー関連の新規プロジェクトが約37,000件発表され、新規投資額は8,000億米ドルを超えていますiv。こうした投資からの配当は、今後何年にもわたって経済全体に広がり続けていくでしょう。住宅以外の建設は米国で最も乗数効果の高い産業の一つであり、1米ドルの直接支出に対して、その3倍以上の関連支出がありますv。
図表1：米国製造業の建設支出合計
（単位：10億米ドル、季節調整済み年率）
出所：米国国勢調査局、2023年7月31日時点
このような建設プロジェクトについては、分布状況に注意しないと効果が偏在していることを見過ごしてしまいます。米国の経済活動はすでに南部や南西部へとシフトし始めており、新規プロジェクトの出現はその勢いを増幅させるようです（図表2参照）。経済地図の変化は、米国内の他の変化に影響するだけでなく、メキシコとカナダを視野に入れたグローバル・サプライチェーンの再構築を進めるでしょう。
図表2：米国GDPに占める各州の割合の変化
(2012-2022)
出所：米国経済分析局（2022年7月31日）、ホワイトハウス（2023年8月15日）、マクロボンド
コモディティはブームに向けて準備中
短期的には、「時間差で訪れる政策金利効果」と金融引き締めの影響で経済成長は厳しいものになると考えます。長期的な投資家には、将来の展望から目を離さないことをお勧めします。一般的に、サプライチェーンの構築には5～10年かかり、そのプロセスには、初期にコモディティと労働力の旺盛な需要が生じる段階を経て、その後何年も成長にプラス寄与がもたらされるという特徴があります。私の見解では、エネルギー、エネルギー転換、住宅、インフラ、電化の需要が特に増大する公算のもと、コモディティの長期的なブームの初期段階に差し掛かっていると考えています。
また、こうした圧力がインフレ圧力を維持する可能性が高いでしょう。成長著しい南部や南西部の建設業や製造業を筆頭に、労働市場が依然として逼迫しているためです。ニアショアリングとオンショアリングは長期的な成長と雇用にとってプラスですが、基準となるインフレ率が以前のサイクルよりも高くなる可能性も強めます。
i. https://www2.blackstone.com/e/213192/-19-is-reshaping-supply-chains/2qw23m/730081719?h=FR8eKIkqlDJp3LXPkKOXU-kmgVu2XbqKwKFnrD5c3GY
ii. https://www2.blackstone.com/e/213192/imer-semestre-de-2023-idiom-es/2qw23q/730081719?h=FR8eKIkqlDJp3LXPkKOXU-kmgVu2XbqKwKFnrD5c3GY
iii. https://www2.blackstone.com/e/213192/l1-en-tv-action-pid-3610002501/2qw23t/730081719?h=FR8eKIkqlDJp3LXPkKOXU-kmgVu2XbqKwKFnrD5c3GY
iv. https://www2.blackstone.com/e/213192/invest-/2qw23x/730081719?h=FR8eKIkqlDJp3LXPkKOXU-kmgVu2XbqKwKFnrD5c3GY
v. https://www2.blackstone.com/e/213192/tion-Economic-Study-5-2020-pdf/2qw241/730081719?h=FR8eKIkqlDJp3LXPkKOXU-kmgVu2XbqKwKFnrD5c3GY
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Market Insights 和訳版
本レポートは、ブラックストーン・グループ プライベート・ウェルス・ソリューションズ のチーフ・インベストメント・ストラテジストであるジョー・ザイドルにより執筆されたマーケット・インサイト (2023年9月6日発行)の和訳版です。本レポートは情報提供のみを目的としており、広告、特定の金融商品に関する投資助言・勧誘、及び販売等を目的としたものではありません。また、本レポートの一部または全部を、弊社の書面による事前承認なく第三者へ転送・共有することを禁じます。
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