マーケット・インサイト

デュレーションが今回の歴史的な回復における議論の的に

金利やインフレ率が上昇する可能性のある投資環境において、不動産は並外れたリターンを生み出す可能性があります。

時は1984年、レーガン大統領が「ロシアを駆逐」すると発言して冷戦を激化させ、初代マッキントッシュ・コンピューターが発売され、映画『ベスト・キッド(原題:The Karate Kid)』では見事な空手技が披露されました。2021年になり、米国は台頭する新興勢力との間で再び緊張を高め、iPhoneの処理能力はアポロ時代の宇宙船のそれを超え、(『ベスト・キッド』の主役と敵役)ダニエル・ラルーソーとジョニー・ロレンスは(ネット配信されている)『コブラ会』で対立を続けています。

1984年は、米国の経済成長率が7%を超えた最後の年としても意味があります。そして、今年は米国の経済成長率が少なくとも1984年以降で最高になるという私の見解の確信度が、ワクチン接種のペースが上がるとともに高まってきています。今回の景気拡大に向け、財政支出と金融政策が、歴史的には珍しく協調して危機に対応しました。通常の景気回復は不安定な足場で始まります。家計は時間をかけて所得と貯蓄を再建して初めて、その後ようやくその余剰を支出に回せるようになります。企業はバランスシートの修復や収益の再構築ができるまでに、まず需要が増えなければなりません。また、州政府や地方自治体は失われた税収を取り戻すのに苦労します。しかし今回は、前払い金を積み上げられたような景気回復であり、家計、企業、地方自治体の手元にある潤沢で記録的な規模の現金が、経済成長へ即時に直結することでしょう。

このように急速に展開する歴史的な景気回復下での投資には、より慎重なポジショニングを必要とします。加速する成長が、労働市場のひっ迫、物価上昇、イールドカーブのスティープ化を引き起こす中、足元の市場では好調な銘柄や、これまでのポートフォリオ配分の前提となっていた理論が試されることとなります。こうした変換期にある市場環境に対して、リスクヘッジが必要となる資産クラスや、逆にその恩恵を受ける資産クラスへの投資にとって、今後の数四半期は重要な転換点となるでしょう。

労働力、インフレ率、イールドカーブへの考察

ひっ迫する労働市場
現在の失業者数はコロナ禍以前の水準のほぼ2倍であり、毎週発表される失業保険新規申請件数は100万人超で推移しています。これを聞くと、企業が適格な従業員の採用に極めて苦戦しているという報告はピンと来ないかもしれません。米連邦準備制度理事会(FRB)の最新のベージュブックでは、ほとんどの地域で労働力不足が報告されており、低スキル職で最も深刻な不足が生じています。6.2%という失業率は労働市場のスラック(需給の緩み)を示唆しているように見えますが、構造的に小さな一角を占める労働力については別の話のようです。

高い需要、少ない労働者
労働者が労働市場から離脱する要因はいくつかあります。一部の問題は短期的なもので、例えば、育児関連であれば学校での対面教育の再開によって緩和されると考えられます。他には、政府からの高額な給付金が一部の低賃金・低スキルの仕事の魅力をそぐといった、長期的な問題があります。経済活動が再開し、回復が広がるにつれ、サービスに対する需要が記録的に増加するのと同時に、企業が生産能力を拡張するために十分な人材を採用できない状況を目にするかもしれません。高まるインフレ圧力を抱える中、今後の賃金上昇に注目が集まります。

あらゆる分野でインフレ上昇が顕在化
賃金インフレは一般的に「下方硬直性がある」といわれ、いったん上昇すると、その水準を維持する傾向があります。しかし、現在顕在化してきているインフレは賃金だけではありません。世界貿易の再開に伴う財への需要の高まりと、その物流上の課題は、供給網に大きな打撃を与え続けています。これにより、図表1~4に示すように、納期遅延、在庫枯渇、価格上昇が生じています。

出所:全米供給管理協会(ISM)、ブルームバーグ、2021年2月28日時点。

米国のロサンゼルス港とロングビーチ港を例にとりましょう。2港を合わせた船舶1隻あたりのコンテナ数は世界の他の港湾施設を上回り、米国の水運による輸入貨物市場シェアの31%を占めるため、両港の状況から世界貿易の動向をうかがうことができます1 。2020年第3四半期以降、景気回復の始まりに伴い、世界の製造業生産と貿易は回復を続けています。需要が急増加したことから、海上輸送能力はひっ迫しており、輸送コストが大きく増加しました。図5のとおり、多くの航路で運賃が2016年以降最高の水準へ急上昇しました。物流ネットワークは、このような供給側の活動の急増に対応するという課題に直面しています。供給網の各リンクは、最適に稼動している他のリンクと相互依存関係にあり、1つのリンクが機能しなくなると、複合効果によって物流網全体が減速します。財の供給網が目いっぱいまで引き延ばされたしわ寄せは、この数ヵ月間に米国や世界各地の主要港で見られた記録的な船舶の混雑状況として顕著に表れました2

供給網の不均衡と労働市場の引き締まりが相まって、CPIとPCEは2018年夏以降で最高水準に押し上げられることが予想されています3 。こうした動きは長期金利の押し上げに寄与する公算が高く、イールドカーブのスティープ化にも影響するでしょう。

図表5:中国航路海上運賃
(2019年12月31日時点を100とする)

出所:Freightos、ブルームバーグ、2021年2月28日現在。Freightos Baltic Indexは、バルチック海運取引所との協働で作成された、40フィートコンテナ(FEU)の市場レートを示す国際貨物料金の代表的な指数です。

イールドカーブのスティープ化
過去3回の景気回復では、景気後退入りからその後の回復期に入る24ヵ月間のカーブのスティープ化は平均180bpsでした4 。しかし今回は、巨額で協調的な景気刺激策が回復を促進しているため、スティープ化は過去平均よりはるかに急速に進むでしょう。米10年国債利回りの上昇に歯止めがきかなくなり、経済への重石となるのを防ぐため、FRBが最終的に介入するかもしれません。それでも、米10年債利回りの下限は設定されている中、上限はまだないと考えています。これは、パウエル議長がここ数週間で繰り返し言及している点です。FRBの政策によってイールドカーブの短期ゾーンはゼロに固定される一方、コストと賃金の上昇圧力が長期ゾーンを押し上げるため、スティープ化はさらに進むでしょう。

金利 – ポートフォリオの試金石

伝統的な投資指南書では、インフレ圧力が長期金利を押し上げる局面で投資家は債券保有期間を短縮し、デュレーション・リスクを軽減すべきだと説きます。この戦略は、現在の環境でも依然として有効です。しかし、投資家は株式や不動産を含め、他の資産クラスの序列が変化する可能性についても、認識しておく必要があります。

株式
構造的に低いインフレ率と債券利回りが低下し続けること幾年、こうした環境下、最もデュレーションの長い資産クラスが市場の勝者となりました。これには、本質的に「長い投資期間」が求められる株式市場で最も投機的な銘柄が含まれます。つまり、収益を生み出す以前の成長企業、およびユニコーン新興企業の株式への投資です。投資家は、はるかな将来に実現するキャッシュフローという報酬を受けられることを期待します。ところが、金利が上昇すると、遠い将来のキャッシュフローを現在の価値に割引するコストが高くなります。これは、ユニコーン企業が収益を生み出すようになるのを待つ間、投資家は他の機会を逸失するためです。イールドカーブのスティープ化が進む中、投資家は赤字企業(特に安い資本コストから大きな恩恵を受けている企業)に関する持論を見直すべきです。現在すでに潤沢なキャッシュフローを創出し、成長率も高い企業は、他をアウトパフォームする可能性があります。

不動産
インフレに対するキャッシュフローの柔軟性、まだ高水準にあるキャップレートのスプレッド、限られた新規供給を背景に、現在の金利上昇環境ではプライベート不動産が魅力的な資産クラスとなりえます。こうした論点について、以下、弊社不動産チームの専門家からの寄稿を紹介します。

インフレ環境における不動産投資

Nadeem Meghji(ブラックストーン、シニア・マネージング・ディレクター、米州不動産責任者)

最も頻繁に寄せられる質問の中に、インフレ率と金利の上昇を伴う経済成長局面における不動産の捉え方に関するものがあります。不動産がインフレに対する優れたヘッジとなり得ることは、広く知られています。適切な資産と適切な市場において、不動産は金利上昇環境で良好なパフォーマンスを収めた実績があり、特に経済成長が力強い場合に顕著です。ただし、セクターと地理的な選択は重要です。

不動産投資のキャッシュフローはインフレと連動
固定キャッシュフローを発生させる従来の債券とは異なり、不動産からのインカムは時間の経過とともに増加する可能性があります。インフレ環境では、大半の不動産資産について市場賃料の上昇が加速します。そのため、ファンダメンタルズの成長が強いセクターかつリース期間が短い資産に優先順位を付けることで、市場賃料の上昇を組み入れ資産の営業キャッシュフローに迅速に反映できます。この最たる例はホテルで、実質的に期間1泊の賃貸であり、素早く料金を引き上げることができます。アパートや倉庫などの他のセクターも、リース期間が比較的短く、インフレ環境で短期的なキャッシュフローの増大を可能にします。これらのすべてが、借入コストとキャップレートの上昇による潜在的な評価への影響を相殺するのに役立ちます。

パフォーマンスは多極化
長期リースで賃料の改定機会が制限されている債券型の資産は、金利上昇に対して相対的に高い感応度を持ちます。また、米国の一部の地方ショッピングモールや都市のオフィスビルなど、テナント需要の低迷に悩まされているセクターは、インフレに対応できるだけの賃料の引き上げを目先で要求できないかもしれません。弊社のポートフォリオでは、これらの脆弱性の高い資産は大幅に回避する一方で、急速に成長しているセクターへの集中を進めています。たとえば、物流セクターはEコマース需要の爆発的な増加から恩恵を受けています。バイオテクノロジーの革命により、ラボオフィスは更なる成長への足場を固めています。ハリウッドのスタジオやクリエイティブ・オフィスは、映像制作の世界的な需要成長に支えられています。サンベルト郊外のアパートは人口動態による力強い追い風と住宅供給不足が収益につながっています。

キャップレートが示唆する金利の上昇余地
キャップレートとリスクフリーレートのリターンの関係は重要です。現在、不動産のキャップレートとバリュエーションは10年国債利回りに比べ、かなり妥当なようです。現在、主要な不動産セクターは平均キャップレート5.4%5 で取引されており、これは10年国債に対し約370bpsのスプレッドとなります6。このスプレッドは、過去35年間の平均約270bpsよりも大幅に広くなっています。このような出発点を考えると、金利の上昇は必ずしも、キャップレートの同等な上昇につながるとは限りません。最近では、2012年から2013年、2016年から2018年にかけての2つの時期に、金利は上昇したものの、キャップレートはほぼ横ばいないし、低下する現象が見られました。実際、過去25年間に金利が上昇した4回のそれぞれにおいて、商業用不動産の価値は概ね上昇しました。

限られた新規供給がバリュエーションをサポート
不動産価格の上昇に影響を与えるもう1つの要因は新規供給で、過去の景気循環で重要なリスク要因となってきました。幸いなことに、現在の供給は適度に抑制された水準にあります。例えば、テナントや投資家の非常に旺盛な需要の恩恵を受けている物流セクターであっても、年間新規供給量は米国の在庫の約2%であり、過去30年平均並みの水準です7。今年インフレ局面に入ることを考慮すると、土地、建設、労働力のコストが上昇する公算は大です。これらの上昇により新規供給は高コストとなり、場合によっては、採算がとれないことも出てくるでしょう。実際、過去6ヵ月間で多くの主要市場のアパート、オフィスビル、倉庫の入替費用が7~10%増加しました8。供給量が減少すれば、既存の資産はより高い占有率とより強力な価格決定力を維持でき、バリュエーションは下支えされます。

人件費上昇には細心の注意が必要
インフレの主な側面は人件費の上昇であり、これは営業利益率に圧力をかける可能性があります。大部分の不動産セクターはマージンが高く、人件費もそれほど高くありませんが、ホテルやシニア住宅など、一部の労働集約型のセクターでは脆弱性が高くなります。これは、これらのセクターを避ける必要があるということではなく、資産評価にあたって、人件費という構成要素の重みが増すことを認識し、現実的な費用増加の前提を反映する必要があることを意味しています。たとえば、レジャー志向のホテルが今後数四半期にわたって景気循環に沿って回復していくことで、需要が高まり、その結果、ホテル所有者の宿泊費に対する設定力が向上し、人件費の上昇による影響が相殺されることも考えられます。

金利やインフレ率が上昇する可能性のある投資環境において、不動産は並外れたリターンを生み出す可能性があります。重要なのは、構造的な逆風にさらされるセクターや債券型のキャッシュフローを伴う資産を回避しながら、適切な事業計画を備えた適切な資産を選択することです。また、投資家は現在の金利環境を利用して、固定金利で長期借入れを行うことができます。これは弊社が運用するコアプラス・ファンドで実践した手法の一つです。こうして、金利上昇による影響を軽減し、より確実なキャッシュフロー見通しを立てることが長期的に可能になります。適切なセクターへ選別投資することで、不動産はキャッシュフローの利回りと成長並びに、実物資産ならではの潜在的なダウンサイド・プロテクションを提供できます。


  1. Port of Los Angeles, as of 2020. https://www.portoflosangeles.org/business/statistics/facts-and-figures
  2. Freight Waves, as of 2/11/21. https://www.freightwaves.com/news/new-video-shows-massive-scope-of-california-box-ship-traffic-jam
  3. Bloomberg consensus forecasts, as of 3/22/21. “CPI” is the year-over-year percent change in U.S. CPI for urban consumers, not seasonally adjusted. “PCE” is the year-over-year percent change in the U.S. GDP personal consumption price index, seasonally adjusted.
  4. Federal Reserve Board of Governors. Based on the spread between constant maturity 10-year and 2-year nominal Treasury yields. Recession periods are defined by the National Bureau of Economic Research.
  5. Green State Advisors, as of 3/1/21. Major sectors include multifamily, logistics, mall, office, and strip centers.
  6. Based on daily 10-year UST rate, as of 3/22/21.
  7. CBRE-EA, as of 3/31/21.
  8. Blackstone proprietary data, as of 3/31/21.

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Market Insights 和訳版
本レポートは、ブラックストーン・グループ のチーフ・インベストメント・ストラテジストであるJoe Zidleとシニア・マネージング・ディレクターのNadeem Meghjiにより執筆されたマーケット・インサイト (2021年3月発行) の和訳版です。本レポートは情報提供のみを目的としており、広告、特定の金融商品に関する投資助言・勧誘、及び販売等を目的としたものではありません。また、本レポートの一部または全部を、弊社の書面による事前承認なく第三者へ転送・共有することを禁じます。
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